Blog7-3 Sales受難の時代到来
営業組織が不要と言われるのはコンシューマービジネスに限った話なのか。
日本がバブルに浮かれていた頃、営業の駆け出しであった私は、よくこういう話を聞かされたものである。いい製品を作れば売れると思うな。いくらいい製品を開発して製造したところで、売れなければ意味がない。だからこそ営業の発言力は強く、会社の中で責任が最も重いのであると。確かに私も自身のキャリアの中で、その醍醐味を経験してきたし、それが当然であると思ってきた。いや、そう思い込んできたのかもしれないし、それが通用する時代だった。
従来型の営業を必要とする時代は終わると言い切るつもりはないが、COVID-19下のビジネス環境は、これまでの常識や慣行をいとも簡単に変えてしまっている。営業活動の上流工程である、いわゆるSDR(Sales Development Representative)やISR(Inside Sales Representative)が受け持つ、電話やInternetを通じた顧客との間での商談発掘プロセスが、世間でいうSales Personが受け持つ商談のクロージングまで、同じようなプロセスによって完結されることが普通になってしまうのではないか、そういう近未来を予感させはしまいか。日本の企業が持つ、「うちの客だから」という、アプリケーション開発やプラットフォームのシステムインテグレーションによってベンダーロックから逃さないという幻想など、砂上の楼閣ではないのか。その結論は間も無く訪れるだろう。
そんな中で、これから営業という職制を持つ人たちは、どう生き抜いていかねばならないのだろうか。かく言う私自身もその1人である。以下は、最近特に感じていることである。営業だけでなく、需要を掘り起こすという意味で営業組織に近いマーケティング面も含めて考えて見た。なお、マーケティングという言葉は、古くはProduct ManagementやMarComという職制に代表されたが、ここではDemand Generationの過程を受け持つ職制の一つと捉えている。
- 営業によるDigital Engagementを容易にするため、製品機能の説明そのものが顧客のソリューションになり得るものを選択(製品選択基準と営業活動のスタンドアローン化)
製品数が多すぎて営業現場が疲弊していることはすでに述べた。とは言え、製品を減らせば良いというものでなく、環境の変化に伴い新たな製品を付加することも合わせて検討しなくては生き残れない。その場合、どういう観点で製品を選ぶべきなのだろうか。まず結論を申し上げると、売った後がロングテールにならず、製品の機能を説明すれば、それがお客の問題解決策(ソリューション)になり得る製品を見極めることである。営業だけでお客にソリューションを提示できることが肝要であり、商売に携わる人員を少なく抑える方法の一つである。ただし、言っておくがこれも長続きはしない。プラットフォームの再販ビジネスは終焉を迎えようとしているのである。
SaaS以前の世界では、お客の社内プロセスや組織などを把握するアセスメントを実行した上で、それに適切なプラットフォームを選択し、その上でアプリケーション開発を行うのであるが、営業の生産性という観点で、IT商社やシステムインテグレータに不都合な現実が存在した。
- お客のセクション間に起こる意見の相違、様々なプラットフォーム屋間の利害、上流工程にいるコンサル屋の跋扈、コードを書くアプリケーション開発会社の都合、大手ベンダーのエゴなど、船頭がたくさん出現し、商談のコントロールが困難であった
- 垂直統合屋ベンダーの思惑でプラットフォームの選択基準を捻じ曲げられる、ネットワークのアーキテクチャやトポロジの変更には顧客社内からも大きな抵抗を受ける
- セールスサイクルが長く、また何よりもポストセールスに多くの時間を取られてしまう
というわけで、SaaS以前は、大手システムインテグレーターやOEMer(富士通、日立、NEC)などにこのアプリケーション開発を伴う商談を任せることになるが、プラットフォーム屋にとっては、商談の不確実性が一気に増し、その可視化ができずに進捗を把握できない状況に陥ってしまう。数字のフォーキャストなどあったものではない。
そこで、業界標準のお話(通信プロトコルなど)の手順をサポートしたアプライアンス商材が登場し、ソフトウェア機能にエッジの効いた製品が登場すると、代理店各社はこぞってそれを採用した。特筆すべきは、ネットワークにプラグインする形で、アプリケーションに大きな影響を与えることなく導入させることができた点にあった。製品の機能を説明することが顧客のニーズを満たしていたため、営業組織だけで完結でき、セールスサイクルが短く、極めて効率的な営業活動を実現することができたのである。”Simplicity”という言葉を業界に広めたベンダーがあったが、顧客にとってシンプルということは売る側にとってもシンプルなのである。
ちなみに、対極にあるのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だと思っている。特に現在は、企業のバックオフィスの自動化・省力化のために、これを適用しようというのがトレンドとなっている。この導入には、上流工程において、深いレベルの業務フロー・プロセス分析が必要となり、所謂コンサル屋と呼ばれる企業のいい稼ぎ口になっているのだが、次々と未確認の不確定要素が後から出てくるため、厄介なことにセールスサイクルが極めて長くなり、営業が商談をコントロールしにくい船頭が多い状態を作ってしまう。導入後の修正やサポートが重要であるため、ロングテールとなり、営業現場は新規顧客への時間を割けづらい状態となってしまう。
SaaS/Cloud以降の世界において、このような製品もしくはソリューションを見出すことは可能なのかは不透明であるが、選択の基準としてこの考え方を持ち合わせることは重要だろう。可能ならセキュリティ関連、もしくはクラウドの周辺ビジネスで、それが見出されればいいのだが。いかに優れたソフトウェアであっても、クラウドに飲み込まれる危険性は拭えない。
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