6-3 国産キャリアやSIのプライベート・クラウドはオワコンなのか?
変化のリトマス試験紙は至る所に現れる。そのシグナルをどう捉えるかは市場をどう見ているかによって解釈は違うものである。
12月に入り、フジテレビが「ネクストキャリア支援希望退職制度」という、早期希望退職の募集を発表した。世間体を気にして尤もらしい言い方をしているが、何のことはない、2回目のリストラである。「おれたちひょうきん族」世代の人間にとっては隔世の感がある。フジテレビこそバブルの象徴の一つであり、電波という既得権益を持ち、制作会社、芸能事務所、電通と護送船団よろしく、広告主企業からの水揚げを分配するシステムを共に守ってきた。今日、新聞の発行部数激減と同じく、若い世代はテレビを見なくなり、企業は広告をテレビからネットへとシフトさせている。にもかかわらず、「見えているのに都合の悪いことは見えない病」を発症させ、当たらず障らずを続けてきた結果、一般人にも目に見えて分かる凋落ぶりを晒している。個人的には賛成しないが、本当にホリエモンに買収されていればよかったのではないか、と思ってしまったりするわけです。恐らく六本木や赤坂界隈も戦々恐々としているだろう。
さて、「伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は12月1日、神戸市と横浜市、東京・文京の全国3カ所に保有するデータセンターについて、シンガポールのデータセンター専業会社のデジタルエッジに全施設を241億円で売却すると発表した。売却に伴い、CTCの2021年10~12月期の連結純利益を26億円押し上げる。CTCはデータセンターの保有をやめることで維持にかかるコストなどを削減し、クラウド型のシステム開発に注力する。」との発表が12月に入ってリリースされた。
この発表自体、私個人は全く驚くことがない。なるべくしてなっているだけで、この場を借りて述べてきたことが起こっているだけだと思うからです。なんとCRCとCTCが合併してそんなに経っていない頃、2003年の四半期業績発表資料の中に、既に以下の記述が見られます。
https://www.ctc-g.co.jp/company/ir/crc/jigyo/46/46_tyukan.pdf
2003年11月第46期中間事業報告書「アウトソーシングビジネスは、高度なサービス内容で差別化を図っておりますが、他社参入などにより新規顧客の取り込みと価格面でさらに厳しさを増してきております。このため、コスト削減を徹底し、営業力の強化を進め、3拠点のデータセンターを軸としたアウトソーシングビジネスのさらなる拡大を図っております。」
2003年の時点で、プラットフォーマーがここまではびこると予想できた人はいまい。しかし、アウトソーシングなる、今で言うところのプライベート・クラウドのようなビジネスは、IT大手商社やシステム・インテグレーターにとっては、コストとビジネスのスケールという点で、既に厳しい段階に突入していたことを物語っています。サーバーやスイッチ、DBやERPに代表されるソフトウェアの再販と、それに付随するシステム開発を生業とする大手IT企業にとって、事業領域をデータセンターやアウトソーシングという領域に事業拡大させるというのは、当時は理にかなっているものだったと思われますが、20年近くが経過し、プラットフォーマーがここまで大きくなってコスト構造を激変させ、なおかつCOVID-19によってユーザー側の心理的ハードルが下がった今日に至って、まだ続けて行く余地などあるのだろうか。2003年当時は、ネットワークインフラを持つ通信キャリアのサービスとの比較で済んだものが、今はプラットフォーマーが相手なのである。現に私はセキュリティ・インフラすらクラウド型へ移行する、たくさんのお客の声を聞いている。
Facebookが社名をMetaに変えるそうな。仮想現実をもっとネットの世界に、いや現実の人間活動をよりネットの世界へ、というところなのだろうか。御免被りたいものである。そこでシリコンバレーはメンロパークにある本社キャンパスで、正面玄関にあるサインを変えることとなったが、実はそのサインの裏にSun Microsystemsのサインを残してあることは、一部には有名な話である。残す理由の本当のところは諸説あるようだが、私が聞いた話では、「判断を間違えると企業はあっという間に退場させられる」、その事を常に念頭に置くべしという、悪しき先例としてのSun Microsystemを忘れるなという事らしい。SunのOBとしては甚だ残念なことではあるが、Facebookの本社キャンパスは、かつてSun Microsystemのキャンパスだったのである。
大手電機メーカーに代表されるように、日本の大手企業も技術変革の波を見誤ったがゆえに、そして決断をしなかったがゆえに、世界の潮流から取り残されようとしているケースが数多くある。ITというセクターに限って言えば、一部の領域は未だプラットフォーマーから守れると思っているのだろうか。若い世代の人たちは、かつてCanonがパソコンを作っていた事を知らない。この事業を清算するにあたり、当時社員は「我々はこの仕事に命をかけています」と社長に直訴したところ、「そんなものに命をかけてもらっては困るんだ」という言葉が返ってきたそうである。ビジネスの大局観を持つ事は難しい。それ以上にFocusとDe-focusという決断はもっと難しい。人が関係するからである。
- カテゴリー
- Blog