Chapter3-2 (続) “Software as a Service”は生き残りをかけて
パンデミックによってもたらされた環境の変化は日本の商習慣や文化を破壊し、デジタルトランスフォーメンションを加速する
3-2でZoomに起こった予期せぬビジネスの加速が、COVID-19パンデミックによって引き起こされたことを述べた。おそらく彼らはエコノミーバブルよろしく我が世を謳歌しているのかと思いきや、MS-TeamsをもつMicrosoftやSlackを買収したSalesforceを警戒していると共に、企業向け販売体制の強化に突き進んでいる。特にOffice365と共に提供されるMS-Teamsは、彼らにとって脅威である。ユーザーインターフェースは違うものの、実現できる機能やサービスは非常に似通っている。コンシューマーで圧倒的な占有率を誇るZoomであっても、企業ユーザー向けサービスにおいては、Microsoftの脅威を感じている。O365ユーザー企業へのMS-Teams採用率は高くなるであろうし、何よりもWindows Server, SQL, Exchangeなど、長年企業向けにビジネスを開拓行って来たMicrosoftは、90年代のMicrosoftとは別企業であり、企業向け営業体制を持つMicrosoftは、そこが大きな強みとなっている。
一方、DocuSignはどうだろうか。日本の保守的で閉塞化したビジネス慣習のもっとも典型的なものが、印鑑による承認プロセスではなかろうか。稟議書が最終決裁権限者まで順に回付され、各承認者の印鑑が押された書類が完成して初めて購買や契約へと進むことができる。最近では「稟議」という日本語が外国人のボス達にも通じるくらいになったものだが、意思決定の遅さと柔軟性のなさの象徴として印鑑は日本社会にあり続け、変えることのできない商慣習と考えられて来たのです。各営業は、この印鑑による稟議プロセスのスピードによって、今月の数字がどうなるかやきもきせざるを状況に陥るのが常でありました。個人的に印鑑の文化そのものに異を唱えるつもりはないが、二者間の契約行為に関するSaaSであるDocuSignに対しては、大きな障壁となり、個人的には日本市場での未来は見出すことは出来ませんでした。プロセスだけでなく文化のようなものまで絡んでくれば、容易に変化など起きようがないと思われたからである。
2020年9月、パンデミックの最中に、日本では菅義偉政権が発足しました。パンデミック下の日本にあって、菅総理はこれを規制緩和の好機と捉えたのだろう、デジタル改革担当大臣を配置し、また行政改革担当大臣の口から「脱ハンコ」という言葉まで発するようになったのである。率先して官公庁や自治体から進めるときたから、上へ下への大騒ぎになったのであるが、ハンコ議連が反対するとかは問題ではなく、IT業界から見ると、組織のプロセスそのものが変わるということは、情報システムそのものが変わるということを意味し、新たなビジネスチャンスであると同時に、国産の良いワークフローシステムがベンチャー以外にないことにも愕然としたのである。一挙にスターダムにのし上がったDocuSignと国内のベンチャーは、どれもSaaSというビジネス形態を取っている。これもまた、企業ユーザーのパブリッククラウド移行を、心理的な面でハードルを下げることになるだろう。
具体的な数値によって評価したいのは山々であるが、その後に対策を始めても手遅れになっている可能性が高い。イメージの共有としては、パンデミックによって引き起こされた様々な事象が、クラウド化の加速度を格段に上げたと理解しておいたほうがいいだろう。因果関係はともかく、以下のデータは興味深い。特にAsia Pacificの成長率には着目する必要がある。パブリッククラウドは、中国ではGreat Firewallとやらに阻まれ、事業展開はできていない。その中で日本がどれほどの成長率なのかは間も無く出てくるだろう。
4月よりこの間、様々なことを勝手に書いて来たが、ここでもう一度エッセンスをおさらいしたい。
- ITプラットフォーム・ビジネスは縮小する
- Public Cloudの拡大スピードはCOVID-19によって結果的に大きく加速された
- Private Cloudの将来は明るくない
- ローカルSIerとDistributorは、ビジネスモデルを変換する時に来ている
- プラットフォーマーの弱点に着目する必要がある(後述)
【追記】
プラットフォーマーの動きはめまぐるしく、ここまで書いて来たことを裏付けするような動きが取られている。クラウドインフラ市場の2021年第一四半期売上高は4.3兆円となり、明らかに新型コロナが移行加速の追い風となっていると、Techcrunchは報じている。またAWSは、オンプレミスソフトウェアをSaaSに変換するツールをオープンソースで提供すると発表した。恐ろしいことに、Googleは、実店舗を簡単にオンライン化するインドのDotPeに約30億円投資すると発表している。一体彼らはどこまで飲み込めば気が済むのだろう。彼らに支配された社会など真っ平御免である。
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