Chapter2-5 ITプラットフォーム業界に降りかかる災厄
ITプラットフォーム・ビジネスに軸足を置く企業は既に詰んでいる、それがこれから明確になって行くだろう。
前回触れた三菱UFGの発表は、「移行対象に聖域はない、勘定系をクラウド化する可能性は十分ある」というものだった。そしてIaaSとPaaSについてはAWSというパブリッククラウドを使うと決めたのである。恐らく業界的には、一部を除いては、IBM, NTT-DATAもしくは通信キャリアのプライベート・クラウドを選択するだろうと思っていたのであるが、一足飛びにパブリッククラウドへ行ってしまったのである。この発表によって、多くの企業がパブリッククラウドへのハードルを、心理的に下げたのではないだろうか。金融業と官公庁というのは、一番最後に技術革新を取り入れる業種という認識が根付いていたのに、彼らがお墨付きを与える結果になったのである。耳を疑った人々が多くいたのも無理はない。個人的には、2016年度から2019年度のパブリッククラウドの成長に、少なからぬ三菱ショックの影響があったと想像している。
2-2,2-3で提供した成長率のデータは、国内のデータセンター事業者やプロバイダーなど、プライベートクラウドを提供しているプレイヤーには戦慄のデータに違いない。加えてITベンダーの販売部門にとっても非常に厳しい現実である。エンドユーザーがパブリッククラウドへ移ると言うことは、エンドユーザーのオンプレミス環境への販売はもちろん、国内のプライベートクラウド提供事業者に対するプラットフォーム製品を販売する機会が縮小していくことを意味するからだ。
パブリッククラウドを展開するプラットフォーマーたちは、国内外のITベンダーから製品を調達しない。データセンター内のサーバー、ネットワーク、ストレージなども内製であり、当然OS、ファイルシステムからミドルウェアに到るまで自社でまかなっているのである。ご存知ハードウェアはコモディティ化しているから何処からでも安価に調達をでき、米国の国防権限法によってHUAWEI製品を使わないように気をつけるくらいだろうし、各ソフトウェアベンダーを全部合わせても勝ち目のないくらい優秀なエンジニアがコードを書いている。彼等のエンドユーザーは彼らのプラットフォームが何であるかなど意に介さない、サービスを使って何が出来るかいう期待値と、SLA(Service Level Agreement)が明確になっていればいいのだ。
実際にエンドユーザーのクラウドの利用状況はどうなのだろう。様々なリサーチ会社が提供するデータが存在するのは承知している。我々がG2Mを策定する上で常に有用なデータとして利用しているが、ダブルチェックが必要である。以下のデータは、2020年に、あるITディストリビューターのイベントにおいて、実際にヒヤリングをエンドユーザーに行った結果である。保守的な日本のエンドユーザーの検討状況については、本番サイト(Conputing Instanceないし一次システム)の割合は非常に小さく、DRやバックアップなどのコールドデータが大きな割合を占めるだろうと予想していたが、結果は以下のグラフの通りであった。パブリッククラウド利用ユーザーの実に37%が本番サイトとして利用しているという現実である。DRとバックアップデータの保存先の合算が過半数を占めていると想像していたが、実態は先を行っていた。
では、実際にどれだけパブリック・クラウドをプライマリシステム(本番環境、あるいは業務アプリケーション)として利用しているエンタープライズ・ユーザーがいるかと言えば、以下のグラフの通り未だマジョリティと言える段階ではないようである。従って、パブリッククラウド移行の心理的ハードルは大きく下がったものの、実際に動くのはこれからとも言えるだろう。しかし、一旦パブリッククラウドへの移行を決めれば、約4割が本番系のシステムを検討している現状を考えれば、そのパラダイムシフトの破壊力は凄まじいものになる。なぜならこの4割というのは全企業ユーザーの大手企業(Large Enterprise)と考えるのが常識だろうと推測されるからである(このデータには企業規模は含まれていない)。何かのきっかけでこの流れが加速するとき、プライベートクラウドから、IaaSやPaaSがパブリッククラウドへと移行が進み、従来型のITプラットフォームビジネスは縮小していくと予測できるから、ITベンダーには大きな死活問題となる。それも予想に反して一次システムが40%もあると、パブリッククラウド事業者の売り上げ減少は更にひどいことになり、決して楽観視できないものと考えられる。おまけにAmazonはバックアップまで自分達でやると宣言している。https://aws.amazon.com/jp/backup/ 彼らは全てを中抜きし、クラウド時代のIBMよろしく垂直統合をすると宣言しているに等しいのである。
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