Chapter2-2 Private Cloudの真の動機とは

Private cloud それは言い換えれば既存の通信事業者やシステム・インテグレーターがプラットフォーマーに対する恐怖の表れでもある。

これまで、クラウドサービス企業に顧客を奪われる可能性のあるB2Bに特化したIT関連企業は、このような外圧とも言える動きに対して、その後どう動いていたのだろうか。日本ではプライベート・クラウドが大きな潮流となり、ITビジネスという点においてB2Bを支える要因となった。前述のSaaSを利用するには、そもそも会社のプロセス自体をSaaSに合わせることを要求されることに加え、個別企業の事情によるシステムへの細かな修正ができなかったためである。顧客からすれば、「なんで客が売り手に合わせて使ってやる必要があるのか」と言う、言い変えれば「金を出すのはこっちだ」と、ある意味至極当然の要求を満たすことができなかったからである。

 そこで、日本のテレコムキャリア、プロバイダー、システムインテグレーターなどが自前のデータセンターを用意し、特定顧客専用のクラウド、すなわちプライベートクラウドを提供する時代となった。これは今でも続いている潮流であり、そのベースとしてPaaSやIaaSが提供され、その上でアプリケーションやサービスを自前で構築しているのである。この時、プラットフォームやインフラについて、特定顧客専用なのか共用型なのかは、セキュリティに対する要求と支出するコストとの兼合いで決定された(セキュリティに懸念を持っていないユーザーはパブリッククラウドへ移行しただろう)。この結果、企業の情報システムは、多くの場合で以下のような分類で検討されることが多くなった。もちろん、既にこの考えは崩れつつあると共に、もちろん例外も存在する。

 

  1. 重要なデータを保持する、あるいは高いI/O性能を要するシステムはオンプレミス
  2. 非定型業務やそんなに高いI/O処理を要さないものはプライベートクラウド
  3. パブリッククラウドに関しては、コールドデータの保管先、データのDR先と考える
  4. パブリッククラウドでも、Salesforceのように一部のSaaSではユーザーの大きな拡大が続いている、コールドデータの保管先としてのSaaS(例:BOX)は広く受け入れられている

 

 ここで確認をしておきたいのは、上記の流れに伴いIT業界の営業先にも、一定の変化が見られたことである。従来であれば、直接販売であれ間接販売であれ、エンドユーザーを目指して営業を行うのが常であったが、それがデータセンターを保持するプレイヤー、すなわちテレコムキャリア、プロバイダー、システムインテグレーター、一部代理店(自前でプライベートクラウドをサービスとして保持する)へと、一定量の流れが変わったのである。もちろん彼らは元々重要な販売先であり大口顧客でもあったが、さらに拍車がかかる結果となった。これらのプレイヤーは、細かい(時に面倒な)日本の顧客の要求を満たし、グローバルなプラットフォーマーやSaaSプレイヤーに顧客を奪われない戦略として、プライベートクラウドを位置付け、単なる土管屋+ラック屋から脱皮しようとしたのである。結果的ではあるが、IT製品のH/WであれS/Wであれ、その選択権がエンドユーザーからプライベートクラウド提供者に一部変わってしまったのである。また、彼らは業界横断的に共通のワークロードであるセキュリティ、バックアップやDRといったサービスをPaaSとして取り込み顧客に提供もしている。エンドユーザーからすると、IT資産を極力自身で保持したくない、固定費を下げたいという動機と相まって、この流れが加速した。ITプラットフオームを販売する側からすると、またビジネスの複雑性が増してしまったのである。

 

 さて、最大の関心事は、上記1-2が、今後どの様に進展するかである。日本のPaaS/IaaS提供プレイヤーの関心事と置き換えてもいいし、各ITベンダーも同様に気を揉んでいるだろう。具体的には、プラットフォーマーの提供するパブリッククラウドに、ローカルのPaaSやIaaSからどれだけ移行が進むのかと言う点であり、Microsoft, Google, AWSにこれ以上侵食されたくない、できればパートナーシップを結び、住み分けを行い、共存できる道を探りたいのが本音ではないだろうか。コンシューマーを相手にした彼らの暴力的な強さを前にして、これがビジネス顧客にも圧倒的なパワーで進行されれば、ひとたまりも無いのである。結論を先に言うが、答えはNoである。

  少し古くなるが、具体的なデータを見て見たい。2016年時点での日本のクラウド全市場規模は1兆4,003億円で対前年比38.5%成長の伸びを示した。内パブリッククラウドは3,883億円(主にAWSとMicrosoft Azure)であり対前年比40.9%成長となった。プライベートクラウドは2016年度1兆121億円で前年度比37.7%成長と1兆円を超えた。特筆すべきは、2016年の時点で、パブリッククラウドは2021年度までの年平均成長率が20.0%で推移するとともに、デディケイテッド・プライベートクラウドの拡大により、トータルの市場規模で、2021年度には2016年度比2.5倍の2兆5,157億円になると予測されていたが、ここにプラットフォーマーが侵食してくる(プライベートクラウドのニーズをパブリッククラウドが満たしてしまう、PaaS/IaaSがパブリッククラウドへシフトする)と、国内IT業界と国内外のITベンダーにとって、大きな脅威となることは前述の通りである。正に恐怖なのである。