Chapter2-1 Consumer Dataの爆飲からEnterpriseへ

ITプラットフォーム・ビジネスは危機に直面している。次から次へと出現するXaaS企業の前に自由などあるのか。

1990年代後半、当時の松井証券は真っ先にネット証券へと舵を切った。その頃、富士通を介してそのシステム構築案件に関わった経験があるが、まさか自身もネット証券のユーザーになるとは思いもよらなかった。また、2000年代当初、会社の同僚の一人がバークシャ・ハザウェイとアマゾンの株をせっせと買っていた記憶がある。ウォーレン・バフェットの投資会社株を買うのは理解できるが、「アマゾンなんてただのネット書店じゃないか」というのが凡人の考えであった。彼はいまもアマゾン株を持っているだろうか、所持しているならひと財産となっただろう。今となっては当たり前になったネットを通じた購買や取引も、当時はここまで大きくなるとは思わなかったのである。さらに具体的なネット販売の仲介よりも、彼らは個人の情報をビッグデータとして保持し、その情報がネット購買行動に大きな影響を及ぼす以上に、企業がコンシューマーにどうリーチすべきかを決定づけるモンスターになってしまったところに、そこはかとない不安を感じているのである。

 我々一般ネットユーザーは、無料という名のサービスの前で、無償で自分の時間をビッグデータへの入力に提供しているのである、Great Fire Wallを構成している中国を除いて。膨大なビッグデータを保持し、AIを用いて様々な回答を導くことのできる彼らは、さしずめ全能の神と思っているかもしれない。Googleに加えFacebookやTwitterのようなSNSも、ネット広告に頼ったビジネスモデルだけで成立するのか甚だ疑問であったが、SNSが一国以上の人口を抱え、そこに影響力を及ぼすことができるのであれば、データそのものが金というのも納得がいく。彼らが今日ほどの大きな影響力を持ち、一国の大統領の口を封じる力を持つことになるとは恐ろしい時代である。金のなる木は、データがオイルに取って代わるとはよく言ったものである。

本題に戻そう。

上述は、彼らプラットフォーマーと一般のネットユーザーの関係性であるが、一般のユーザーから見れば、生活が豊かになったり便利になったりするのは歓迎すべきことであり、それが誰の手によってなされているのか、ましてやプラットフォーマーの思惑や目的など全く意に介さない問題であり、興味すらないだろう。

 だが、B2Bの左のBusinessに大きな影響を及ぼすプレイヤーが出現となれば、当の本人たちは正直穏やかではいられないだろう。なぜならIT業界のビジネスを根本的に変えられるばかりか、死屍累々となる企業が続出すると予測するからだ。特にIT業界の左端のBに該当する、プラットフォームの再販やサービスを生業にしてきた会社、アプリケーションやシステムの開発企業は大打撃を受けるだろう。いつの間にかインターネットユーザーを囲い込んでしまったように、企業を囲い込んでしまう何者かが出現したが最後、小さな島国のIT関連企業などひとたまりも無いのである。そして何かの要因によってその動きが加速されることがある。今まさに加速中なのである。

 

 CRM(Customer Relation Management)の雄であるSalesforceは、SaaS(Software as a Service、最近ではクラウドサービスと一般的に言われる)の草分けとしてあまりにも有名だが、当初は外資系の日本法人以外に見向きもされなかった。日本語対応はされておらず、何よりも日本という風土の上で営まれるビジネス活動とは、プロセスやロジックが違っていたためである。20年以上の時を経て、今やSalesforceは使えて当然であり、職務経歴書にその熟練度が記載されるほどのサービスとなった。Googleのポータルページにはメールやカレンダー、ドライブなどが提供されているし、ServiceNow, Workday, Concur(今はSAP), Okta, Slack(Salesforceが買収), Zoom, Anaplanなどなど、多くのサービスがリリースされているのは、業界のみならず、一般の誰もが知るところとなったのである。また、国外での影響力はほとんどないものの、彼らを模倣した日本のベンチャーもローカルにたくさん出現している。このような動きに対して、従来の大手IT関連企業はどのような対応策を取ってきたのだろうか。