Chapter2-6 Distribution Modelの破綻
エンドユーザーのクラウド移行の動向的にも、新たな技術革新を伴ったプラットフォームの提供可否という観点的にも、ITビジネスの自由度は大きく狭まっている。
検索から広告収入を得るビジネスを拡大し、アンドロイドOSに止まらず、Office Tool、地図情報、YouTubeにまで広げてきたGoogle、90年代後半には独禁法違反の疑いがかけられるほどありとあらゆるデスクトップアプリケーションからエンタープライズサーバー製品にビジネスを拡大したMicrosoft、そして本のネット書店に止まらず、ありとあらゆる物品・サービス販売を飲み込み、無人物理店舗や航空貨物にまでその手を広げてしまったAmazon。今やエンタープライズ向けCloudサービスを飲み込み、ビッグデータとAIを駆使して人類をコントロールするかもしれない危惧を抱かせるにまでなってしまったプラットフォーマー。地方都市のシャッター街を生み出した大型スーパーに取って代わり、Amazonはコンシューマーへのラストワンマイル以外を押さえてしまった(ここはUBERと日本の運送業者が最後の砦となっている)。クラウドサービスまで彼等に押さえられれば、今度はITプラットフォームビジネスやパッケージソフト業界がシャッター街となってしまう。システムインテグレーターが顧客の囲い込みを目的としたプライベート・クラウドサービスをやってみたところで、ほんの少し寿命を伸ばすにすぎないだろう。そうならないために熾烈なせめぎ合いが起きているのではないか。残念ではあるが、日本のプライベートクラウド事業は、日本国内という極めて限られた顧客しか得られない。NTT CommunicationsやKDDIが、いくら海外展開をしても、それは海外へ進出した日本企業向けのビジネスでしかない。スケールメリットを活かせない彼らは、日本国内に限定してもプラットフォーマーに勝てるだろうか。
賢明なるIBMは90年代にメーカーとしての位置付けを捨て、システムインテグレーターとして企業再生を行った。それまでのITは、IBMや富士通・NEC・日立などに代表される巨大メーカーによって、全ての要素技術が押さえられ、顧客に選択肢はなく、メーカーに言われるがまま、非効率で高価な買い物を続けなくてはならなかった。システムへの初期投資だけでなく、年間保守料金も非常に高価な出費をせねばならなかった。日本メーカーによる一円入札という異常な商慣習も見受けられたが、その後に発生する随意契約は、システム開発や年間保守料金という名の果実によって、元を取るという意思表明であり、これはメディアを通じて批判を浴びたのである。そこに登場したオープンシステムによって、それまでのパラダイムが破壊され、ネットワーク、サーバー、セキュリティ、ストレージ、バックアップ、データベース、CRM、分析(SASなど)、各種ミドルウェアなど、各専業メーカーに分業され、エンドユーザーは市場で一番良いものを選択することが可能となった。しかし、それを組み合わせた構築を自ら行うノウハウを、エンドユーザーは持ち合わせておらず、そこにシステムインテグレータが登場したのがこの頃であった。のちにエコシステムという言い方になって現在に至っている。その間、Disruptive Innovator(破壊的技術革新者)によって、IT市場では古いSustainable Innovator(持続的技術革新者)が駆逐された。
しかし、現在起こっているメガプラットフォーマーによるエンタープライズ市場への浸透は、先祖返りした自由のないIT市場へと戻ってしまう、もっとも忌み嫌う寡占市場を再び形成する可能性すら考えられている。現在進行している出来事は、ITプラットフォーム・ビジネス業界の技術革新とビジネスそのものの死を意味し、そのディストリビューションビジネスは破綻するだろうと予測するに足りうるデータで埋め尽くされている。ハードウェアとOSはコモディティ化したものの、その後に登場した新興Disruptive Innovatorのリリースする技術や製品によって、プラットフォームビジネスが今日まで、なんとかそれを継続してきている。いわゆる”Tech Refresh”である。この買い替え需要がプラットフォーム・ビジネスを支えている。では、新しいITプラットフォームを提供するベンダーは出続けるのだろうか。見解を申し上げるなら、出るだろうが極めて出にくくなってしまうのである。
市場原理はまことに厳しく、ウォール・ストリートの住人と投資家は、成長曲線の下降と利益の減少を投資先企業に決して許してなどくれはしない。ここに各企業のジレンマが存在する。
- 新しいブルーオーシャンに必須な破壊的技術は、既存の大手ベンダーからは生まれない。投資家は業績低下を許してくれないために、新しい市場を作ると同時に既存のビジネスを毀損する破壊的技術を生み出す組織そのものを持つことはできない。
- 彼らのイノベーションとは、既存のビジネスを守り顧客を奪われないための改良にすぎず、ネームバリュー、フィナンシャル・エンジニアリングや顧客関係の密接度に頼らざるを得ない。顧客も負けてはいない、この弱みを利用して提供価格の交渉を行い、結果大手ベンダーの利益率をさらに圧迫する。
- パラダイムシフトを起こす破壊的な技術は、必ずベンチャーから生み出され、それが広がる過程において、会社の栄枯盛衰が必ず発生する。ベンチャー企業の初期段階において大手企業が買収を行うのは効率的で安上がりであるためであるが、それ以降買収した会社の技術革新はストップする。
- 買収されなかった新興ベンダーと、無視できなくなった新しいパラダイムに適した会社を買収した大手ベンダーによってTech Refreshが起こり、新しいIT環境が再構築される。
このサイクルに黄色信号、いや赤信号を灯したのがプラットフォーマーと言われるプレイヤーである。前述したように、企業ユーザーのパブリッククラウドへのハードルは下がり、プライベートクラウドの主軸であったIaaSやPaaSがパブリッククラウドへ移行していることによる、日本のITビジネス関連企業への先行き不透明感を述べたが、一方の製品供給側での技術革新が進みにくくなる可能性が高いのだ。少なくとも、サーバー、ネットワーク(SDNやSD-WAN含む)、ストレージ、データマイグレーション、バックアップ・リカバリについては、オンプレミスでの飛躍的な技術革新は最近見られない。企業ユーザーも、クラウド側で納得できる機能が提供されれば、プラットフォームの革新など興味はないのだ。Microsoftがやってきたことを見れば、プラットフォーマー、特にGoogleとAmazonが新しい垂直統合をクラウドで実現するベンダーとして登場していることは火を見るより明らかなのである。
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