Chapter2-3 Cloud for Everything

Cloudの利用用途はどこまで広がるのだろうという愚問は捨て去る時が来た。

2020年6月、Gartnerは「データ/アナリティクス・テクノロジ・トレンドのトップ10」なるものを発表し、2024年までに、世界中の全組織の75%は、AIの試験導入から運用化への段階で移行すると予測している。彼らのプレスリリースによると、

  • より賢く、早く、信頼の置けるAI
  • ダッシュボードの衰退
  • 意思決定インテリジェンス
  • Xアナリティクス
  • 拡張データ管理
  • クラウドは必然
  • データとアナリティクスの世界が衝突
  • データの流通や取引市場
  • データとアナリティクスにおけるブロックチェーン
  • データとアナリティクスの価値基盤を築く関係分析

https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20200624

 詳しくは、上記URLを参照いただきたいものだが、中には私の知人のビジネスを後押しする機械学習に関わる項目も登場するし、Xアナリティクスなどという新しいBuzzwordも登場する。私が一番注目しているのは、この中では地味な「クラウドは必然」という項目である。「2022年までに、データとアナリティクスのイノベーションの90%において、パブリック・クラウド・サービスが不可欠になるだろう」と予測しているのです。プラットフォーマーと言われる人達が、AIにおいて巨大な投資を行なっているのは承知の事実であり、すでにサービスも提供されています。彼らの所持するビッグデータがどう絡んでくるのか個人的にはとても興味深いですが、研究では最先端を行くものの、ビジネスとしては従来ならもっともオンプレミスに残りやすいだろうと思っていました。AIのインフラという観点では、国の研究機関や一部民間企業に当面止まるだろうと考えていましたし、あるいは一般の組織はそのコンピューティング・プロセスを彼らに依存しなくてはならないだろうと思っていたものが、携帯端末が広く一般ユーザーへと広まったごとく、AIの利用が一般の企業・組織へとパブリッククラウドを利用することによって急拡大すると言っているのです。パブリッククラウドはどこまで市場を広げるか、などと言う愚問を蹴散らすような内容であり、”Cloud for Everything”を暗示するかのような項目なのです。

 

 IT Platform業界に身を置き、営業ないしCountry Managerを拝命してきた経験から言うと、マーケットにおけるクラウド利用に関して、日本の業界の空気感としては、大体以下のような共通認識があったように思われる。

 

  • IOスループットがパブリッククラウドではオンプレミスに勝てない
  • センシティブなデータをパブリックに置くのはセキュリティ・リスクがある
  • Amazon(AWS)は、エンタープライズ・ビジネス(企業向け)を理解できない

 

つまり、クラウドへの流れは止まらないが、パブリッククラウドへのシフトは限定的、あるいは市場におけるクリティカルマスには早く達するだろうと言うものだ。むしろそう思い込みたいと言うのが正直なところだと思われる。特に日本市場に置いて、3番目の思い込みはDELLがエンタープライズ市場に進出した時に、彼らのパートナーや顧客の多くが経験していることであった。その後、DELLは様々な企業買収を通じ、またコンサルティング・サービスを充実するなど、企業ユーザーの顧客満足を上げることに成功した。さらにEMC社の買収によってそれはさらに確固たるものとなった。しかし、そこに到る年月の長さと日本市場の複雑を考えれば、企業ユーザーがAmazonにそうそう容易に企業のデータを移行することなど想像できなかったのである。

 

さて、2016年から3年経った2019年度クラウド市場のデータはどうなっていたか。2019年のクラウドサービスの全市場規模は、上述の予測より早く成長し、2兆3572億円で2016年から3年間で約1兆円の成長であるが、特筆すべきは以下の3点である。

 

  • パブリッククラウドの2019年市場規模は8121億円と推計され、市場拡大の勢いが強くAWS, Microsoft, Googleが寡占状態にあり3年間でほぼ倍増である。
  • プライベートクラウドの2019年市場規模は1兆5451億円で、3年間で50%成長に止まっている。
  • 問題はパブリッククラウドの成長率がプライベートクラウドの成長率を上回っていることであり、2024年にはパブリッククラウドの市場規模が約4兆円、一方、プライベートクラウド2024年には約3.0兆円と推計されており、パブリッククラウドがプライベートクラウドに追いつくのは時間の問題と思われる。

 

これはあくまである統計の一つなので、もっと早くその日がくるかもしれないのだ。