Chapter1-5 プラットフォーマーへの不安は日本でも

コンシューマーのシェアという名の下、官民こぞってデジタル・トランスフォーメーションを彼らに依存してしまった結果、恐ろしい事態を招いてしまった。

「米国通信品位法230条では、ユーザーが行った違法な投稿について、プラットフォーマーは責任を負わないという規定があります。ユーザーが他人の権利を侵害する投稿をした場合、ユーザーはもちろんその責任を問われる可能性がありますが、投稿や情報提供を許したプラットフォーマーは責任を負わないことになります。一方、230条では、ユーザーが有害な投稿をした場合、それを削除したとしても責任を負わないというルールも定めており、結果的に削除したとしても削除しなかったとしても、プラットフォーマーは責任を免除されているわけで、プラットフォーマーに非常に有利な甘い法律であるという批判が出ています。つまり恣意的な検閲まがいの削除を許してしまうという疑念があるのです。」

 

米国では、選挙によって選ばれていないプラットフォーマーが、言論を統制することへの恐怖心と彼らへの猜疑心が国民の約半分に持たれることとなった(一般的には共和党を中心とする保守派陣営である)。そして、それはつかみ所のない不安を企業ユーザーにも持たせる結果となった。これは、島国日本の外の話なんであろうか。

 

 昨年発足した日本の菅政権は、国家レベルでデジタル・トランスフォーメーションを加速させる目的で、デジタル庁を発足させ、そこに担当大臣を任命することとなった。印鑑を出来るだけ廃止しマイナンバーカードを普及されるとのことである。しかし、そのサービスは一体どこで動くのだろう、吸い上げたデータは何処で蓄積され管理されるのだろう。国民には知らされていないが、AWSのようなケースが起こる可能性はないのだろうか。自衛隊員の募集が、LINEを利用して行われていることに対して、情報漏洩のリスクは無いのだろうか。気がかりは増えるばかりである。

 

 2021年3月に入り、SNSであるLINEの開発受託会社が大連の中国企業に存在し、その4人の社員がLINEユーザーの個人情報にアクセスし、また画像・投稿などのデータが韓国にあるサーバーに蓄積されているという報道が大きく取り上げられた。ある意味社会インフラの一部となっていたLINEを、総務省はサービスに利用することを停止し、全国の自治体に利用状況を確認する事態に陥り、内閣府もこれに続くこととなったのである。

 そこはかとない不安をプラットフォーマーに抱くのは私だけであろうか。誠に嫌な時代である。

 

【追記】

 2021年3月後半に入り、朝日新聞がスクープを出したLINEの情報管理問題。経営陣は、

  • 中国企業の人間がアクセス可能な状態であり、実際に4人の人間がLINEの個人情報にアクセスしていた。
  • 中国の国家情報法の発布後にも関わらず事態を安易に考えていた。
  • データの漏洩はなかったが、利用ユーザーに対してデータの管理について分かりづらい説明であった。

と釈明・謝罪した。しかし、これは事実の矮小化である。上記についてはもちろんのこと、問題の本質は、

  • 画像や映像のデータを韓国のサーバーで管理していたこと
  • 日本国政府、自治体、LINEを利用する企業群に対して、データは日本で管理すると虚偽説明をしていた

である。後述する、クラウドにおけるセキュリティの限界とは、全く異質のユーザーを裏切る行為である。深刻なのは、自治体や政府のサービスがそれを利用しており個人情報が危険に晒されていること、LINE PAYやLINE BANKなどの金融サービスがLINEというインフラの上に存在すること、様々なレベルでの安全保障に関わる問題であることである。この問題に対するLINE経営陣の態度は、責任逃れの論点外しである。このようなSNSを放置しておくことは、国民の不利益を将来に渡って内在させてしまうことになりかねない。技術的な問題ではなく、企業の姿勢がクラウドというものへの警戒心を、更に増幅させてしまうのである。